2012年夏の9号発行以来、様々な諸事情が重なって次の号を発行できずにおりました。しかし苦節4年、編集長を交代し新たな編集部体制を組み直して、ようやくここに10号をお届けすることができました。絞り出すようにして、やっと発行が叶ったものです。編集委員一同、ホッとしております。この喜びを、読者の皆さまと共有させて頂けましたら望外の喜びです。
○特集 Ⅰ
『中上健次 没後20年を越えて』
このテーマは、実は3年前に10号を発行する予定で掲げていたもので、大西巨人さん,谷川健一さん,村上龍さんのお三方からは、2013年に原稿を頂いてしまっていたものでした。牛王が停滞していた3年の間に、大西巨人さんと谷川健一さんは共に逝去されてしまい、我々の手元には遺稿のような形でお二人の原稿が残されました。こうしてやっと皆さまの目前に玉稿をお届けできて、本当によかったと思います。
中上紀さんからは、ご自分のアルバムからお父様の古い写真をいくつか選んで頂き、それぞれのエピソードをご披露頂いた講演の抄録をご提供頂きました。ご家族のみが知り得る中上健次の素顔が、ここに垣間見えています。
○特集Ⅱ
『世界経済を斬る②』
経済思想学者・堂目卓生さんに特別インタビューをお願いしました。これも3年前に掲載予定だったのですが、堂目先生に内容を再度ご確認頂き、今読んでも充分時流に耐え得る部分が多いとのことで、一部を変更して掲載の運びとなりました。アダム・スミスを起点とする経済学の巨人の思想を順次紹介しながら、現在の日本社会が陥っている問題は何か,どのような方法論を以って今後の経済活動は成されるべきか,の方向性を探ります。
自由エッセイ【ときの風】には、今回も本誌編集委員を含んで全18名からの原稿が寄せられました。3年前にはもう少し多くの方から原稿を頂いていたのですが、3年間も塩づけにしてしまったので、改めて掲載の可否を巡って寄稿者おひとりずつに確認を取ったのでした。その結果、3年前に頂いた原稿をそのまま掲載することにしたものもあります。一部を変更して掲載したものもあります。一方で、3年前には原稿をお寄せ頂きましたが、今回の発行に際しては”内容が時流に合わない”とか”心境の変化”を理由に、掲載を辞退された方も何名かいらっしゃいました。タイミングって大事ですよね。中にはどうしても連絡先の分からない方もいて、止むを得ず掲載を見合わせた原稿もありました。誠に申し訳ないことでした。
論文は七編が登場。いずれも今年の10号のために寄せられました。基本的に、若手の中上健次研究者たちが中心となり担って下さっています。また、小説三篇も、今年の10号用に寄せられものです。
【特集Ⅰ】 |
<中上健次 没後20年を越えて> |
私蔵写真から見る中上健次 中上 紀
中上健次世にありせば 大西巨人
「枯木灘」頌 谷川健一
「村上、文学をやれ」 村上 龍
【特集2Ⅱ】 |
<世界経済を斬る②>(インタビュー) |
混迷する経済世界を総合的視点から俯瞰する 堂目卓生 聞き手 押尾 隆
【ときの風】(自由エッセイ)
縁は異なもの味なもの 石井泰四郎
新宿文化の担い手たち たなかむつこ
『新日本風土記』考 城 浩介
ひりひりとした記憶 美郷 平
KN 渡辺一郎
くまくま会立ち上がる 上條 聡
ある米国人青年と本田宗一郎、新宮 鳥居吉治
料理道の理由 河村研二
ジャズとテレビ 渡辺 考
業 草野 夕
熊野大学と『牛王』 東 輝彦
難聴者に音楽を伝える 稲山訓央
作家がのこしたもの 棚部秀行
うさぎの家 小田桐優子
いつか、ギラギラしない日 五井 樹
ちいさいひとたちに 内田未来
格言の信憑性 侍来弘樹
記憶せよ、とケンジは言った 高橋 航
生誕と没後 市川真人
川で出会った少年 村田沙耶香
ある「故郷喪失」 佐藤康智
北九州と熊野 岡田 亨
【付録】くまくま会活動報告 くまくま会編集局
”一番はじめ”にあったもの 鈴木華織
「異族」について アオイテフ
オバたちの「ヴァギナ・モノローグ」 石川真知子
『岬』再読の試み 今井亮一
中上健次『枯木灘』 佐藤綾佳
中上健次・短編小説「天鼓」における古典受容 松本 海
熊野の地/血をめぐる文学 渡邊英理
蓮生貴子 中田重顕
赤根 勝浦雄壽
そして私は不幸な方を選ぶ 中山幾斗